2003年3月18日
自分が「裏切られた」と思ったのは、敗戦の日――昨日まで戦争賛成 今日から戦争反対。
3月21日
アメリカのイラク攻撃。開戦まで48時間待つというアメリカの発表を聞いて3月20日バリ時間9時、画家は仕事が手につかない。心を静めて始めるしかない。
3月24日
この絵を見た時、人はどう感じるか―ということから話しが始まった。垂直の人物の絵、みどりの葉を背景にして真ん中に立っている紫の人物。「希望という主題を描きたいんだよ。」21世紀というのは調和のとれた良い世紀になると思っていたんだよ。今、こういう時代になって芸術というのがとても大事だと思う。人々が救われるのは芸術の寄ってだと思う。マティスが「安楽椅子の絵」を描こうとした。あの戦争の時代、幸せに安楽椅子に座っていることを願う。今、この熱帯にいて、すぐそこの木陰からすっくと立った人が現れる。これは「希望」だよね。
ヘミングウェイは創作をする時、立った状態でしたらしい。考えを書きつける時、タイプを打つのも(タイプを高い位置に置いて仕事をしている写真がある)立ってしたらしい。座っているのはそれを読み直す時。創作する、ものを生み出す時は立っているとスムーズに行く。ピカソの写真を見ても立って制作している。芸術家というのはどうしてもその時代と切り結んでいる。それから離れるわけにはいかない。過去のどの偉大な芸術家もそれを考えたと思うよ。「芸術家として自分は何をするか。」
「調和」というのはとても大事なことだよ。 21世紀は調和の時代だと思ったんだけど。
3月29日
朝冷蔵庫を開けてオレンジジュースをグラスに注いでそれを持ってアトリエに行き、ゆっくり全体を眺めて仕事に取り掛かる、これが1日の始まり。
5月2日からの日南油津レンガ館の個展のために額縁を付けたりといった準備をしている。今回はバリでの生活費しか日本から持って来ていない。この絵が金になるかならないか。
3月31日
100号の太陽の絵をやっている「銀行がこのくらいの絵を掛けるようになると良いんだがな。それを市民が見る。日本もそろそろそのぐらいになっていいよ。絵描きはもっと恵まれて良いよ。」
昨夜の久々の雨のせいで仕事の時ぐっしょり汗をかく。画家はこれが好き。充分に仕事をし、じっくりと汗をかいてマンディをする。裸で絵をかくのが一番いい。
物語性が主になるのは良くないね。絵の中に物語が全部見えちゃう。やはり現代絵画じゃないと。瑛九さんのは詩があるのね、絵に。下手だけど。エッチングなんかいいよね。晩年の点描画―これは良くないね瑛九のチマチマした気持ちが全部現れてる。県美術館がこれをもてはやしてる―もっとダイナミックに描かなくちゃ。今瑛九が生きていたら、きっとこれを否定している。否定しておいて前に進む。これが瑛九。